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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)1147号 判決

上告人

柴田町商工業協同組合

右代表者代表理事

横田虎雄

右訴訟代理人弁護士

逸見惣作

中地喜一

被上告人

浜田朝吉

ほか一名

右両名訴訟代理人弁護士

八島喜久夫

被上告人

気仙宗助

ほか二名

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人中村喜一、同逸見惣作の上告理由第一点について。

所論の点に関し、原判決は、本件金銭消費貸借当時、訴外加茂庄太郎が上告人組合代表理事と訴外株式会社加茂組の代表取締役を兼ねているから、中小企業等協同組合法第三八条の規定の準用があると解すべきであるとしたうえ、(イ)上告人組合創立当初から臨時総会の協議の結果にもとづき組合員一同において加茂庄太郎に対し営業資金の融資方を一任していたこと、(ロ)従来しばしば同人が株式会社加茂組や七十七銀行船岡支店から融資を受けて上告人組合の資金に充てていたこと、(ハ)当時上告人組合は融資貸付などに関しては適宜主な役員が参集し役員会(ただし定款所定の正規の理事会でない。)を開き協議していたこと、(ニ)本件金五〇万円の消費貸借についても、当時の上告人組合の役員から年末仕入資金の借入を頼まれて役員会を開き、当時の過半数の承認を得て本件金五〇万円を訴外株式会社加茂組から借り入れたことなどの諸事情を認定し、右認定の事情のものにおいては、本件金五〇万円の消費貸借については、上告人組合の正規の理事会の承認を得なくても、理事がその地位を悪用して組合に不当な損害を与えることの弊害を防止せんとする中小企業等協同組合法第三八条の法意に鑑みるときには、右消費貸借は正規の理事会の承認を得た場合と同視して、これを有効と解するのが相当である旨判示していることが認められる。

思うに、訴外加茂庄太郎が上告人組合代表理事と訴外株式会社加茂組の代表取締役を兼ねている以上、その間に成立する本件金五〇万円の消費貸借について、中小企業等協同組合法第三八条の規定の準用があるとする原判決の判断は、同条の立法趣旨に照らし、当裁判所もこれを正当と是認しうるところであつて、しかも、同条に違反して成立する消費貸借は、同条の立法趣旨に照らし、その効力を生じないと解するのが相当である。

しかるところ、原判決は、同条所定の理事会の承認を得たものと同視してこれを有効と解しうる旨判示しているが、この点についての原判決の判示は、ただちに是認しがたい。

すなわち、上告人組合のような中小企業等協同組合は、中小企業の商業等の事業を行う者、勤労者その他の者が、相互扶助の精神に基き協同して事業を行いこれらの者の公正な経済活動の機会を確保し、もつて、その自主的な経済活動を促進し、その経済的地位の向上を図る(同法一条参照)ために設けられるのであつて、行政庁による相当広汎な監督を受け(同法一〇四条以下・二七条の二・六三条など参照)、経済上の利益をも享受しないでもなく(同法七条参照)、強度の公益性を有すると解され、その役員たる理事の職責は重大であつて(なお、同法三七条参照)、法が理事会の権限としている事項については、全理事について意見を発表しうるなどその権限の行使が適切にあづかれるようにしなければならないことは、同法第四二条において、商法第二五九条から第二五九条の三までの規定を準用していることからも明らかといわねばならない。

そして、この理事たる者がその職責を尽すべく理事会においてその権限を行使することは、単に組合員に対する誠実義務のみからでなく、前述の中小企業等協同組合の公益性の点からも強く要請されているというべきであり、したがつて、理事会の権限として定められている事項については、法に定める理事会の適法な議決がないのにみだりにこれありと解するようなことは、理事をして前記職責を果す機会を奪うことになり、許されないものと解すべきである。

それゆえ、中小企業等協同組合法第四二条により準用される商法第二五九条から二五九条の三の規定による理事会の招集手続も(株式会社の取締役会の招集手続についてはしばらくおき。)、前述した理事の職責にかんがみ、厳格に解釈すべきであつて、かりに一部の理事に対し招集手続に通知もれなどの違法があつたときには、原則として右理事会の決議も無効となると解すべきであり、ただその理由が出席しても理事会の決議の結果になんらの影響がないことが証明されたときにかぎり、右理事会の決議の効力に影響がないと解するのが相当である。

ところで、本件金五〇万円の消費貸借については、原判決の判示するところによると、原判示のような事情のもとで、ただ単に理事の過半数の承認があつたというにとどまるのであり(なお、原判示事実のうち前記(イ)ないし(ハ)としてあげる事実も単に上告人組合において過去の取扱いがそうであつたというにとどまるのであるから、各理事の責任の有無の問題としてならば格別、本件五〇万円の消費貸借を有効とする事由とは認めがたい。)、中小企業等協同組合法第四二条により準用される商法第二五九条から第二五九条の三の規定による理事会の招集手続の有無、その招集手続に対するかしの有無などに関しては、原判決の判文ではかならずしも明確に判断してあるといいがたいから、これらの点について、さらに原審をして審理を尽くさせしめ、事実を確定する必要があるといわねばならない。<中略>

よつて、上告理由第一点において説示した理由にもとづき、民事訴訟法第四〇七条第一項の規定を適用し、原判決を破棄して本件を仙台高等裁判所に差し戻すこととし、全裁判官一致の意見で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 城戸芳彦 石田和外)

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